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大阪地方裁判所 平成元年(わ)2509号 判決 1990年11月14日

本籍

大阪市北区天神橋四丁目五二番地

住居

同区山崎町五番五号マイコーポ扇町公園三〇五号

額縁小売業

西浦京史

昭和一四年一月二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官梶山雅信出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金一億円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市北区天神橋四丁目八番二一号ほか一箇所において額縁小売業を営む傍ら、株式取引を行つていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和六〇年分の実際総所得金額が、事業所得八九〇二万二七〇二円(別紙修正貸借対照表(一)参照)、利子所得二二〇万二二〇八円、配当所得四九八万六九三円、雑所得三二九一万八八〇円の合計一億二九一一万六四八三円あつたのにかかわらず、事業に係る売上げの一部を除外したほか、株式の継続的取引による収入をすべて除外するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六一年三月一五日、同区南扇町七番一三号所在の所轄北税務署において、同税務署長に対し、昭和六〇年分の総所得金額が九七五万九七六二円で、これに対する所得税額が一五九万五〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同年分の正規の所得税額七五七五万二八〇〇円と右申告税額との差額七四一五万七八〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた

第二  昭和六一年分の実際総所得金額が、事業所得一億一四七五万九五九円(別紙修正貸借対照表(二)参照)、利子所得二一三万六五三六円、配当所得九一九万九九八二円、雑所得一億七七五七万六八三三円の合計三億三六六万四三一〇円あつたのにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六二年三月一六日、前記北税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が九二五万三六八二円で、これに対する所得税額が一四八万七五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億九六七七万六一〇〇円と右申告税額との差額一億九五二八万八六〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた

第三  昭和六二年分の実際総所得金額が、事業所得一億三五三万三五九四円(別紙修正貸借対照表(三)参照)、利子所得九〇万三一二六円、配当所得六五二万九〇九七円、雑所得二億五四一七万七〇一四円の合計三億六五一四万二八三一円あつたのにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六三年三月一五日、前記北税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が一二七二万七四九七円で、これに対する所得税額が二六二万九八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同年分の正規の所得税額二億九四一万五八〇〇円と右申告税額との差額二億六七八万六〇〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

(注)括弧内の算用数字は証拠等関係カード検察官請求分の請求番号を示す。

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書二三通

一  被告人作成の確認書

一  第二回公判調書中の証人木村喬の供述部分

一  木村喬の検察官に対する供述調書

一  西浦悦子、村上東岳、銭谷誠一郎、野崎恵之助、岸田保、宮崎基、杉山収、新原勝生、三宅敏直、仲内隆夫、林祥晃、志水正男(64)及び山岡鉄治に対する収税官吏の各質問てん末書

一  収税官吏作成の昭和六三年一一月二

日付、同月五日付(二通)、同月二四日付、同月二五日付(二通)、同月二八日付、同年一二月七日付(二通)、同月八日付(二通)、同月一〇日付(二通)、同月一二日付、同月二二日付(二通、9、46)、同月二五日付(三通)、昭和六四年一月五日付(二通)、同月六日付(九通、15、30、32、38、39、42、48、49、51)、同月七日付(五通)及び平成元年一〇月二五日付各査察官調査書

一  収税官吏作成の査察官調査報告書二通

一  収税官吏作成の写真撮影てん末書三通

一  北税務署長作成の証明書(7)

判示第一、第三の事実につき

一  収税官吏作成の昭和六四年一月六日付査察官調査書(18)

判示第一の事実につき

一  浅尾達久に対する収税官吏の質問てん末書

一  北税務署長作成の証明書(4)

判示第二、第三の事実につき

一  収税官吏作成の昭和六三年一二月一三日付(20)及び同月二二日付(二通、24、25)各査察官調査書

判示第二の事実につき

一  巽泰三に対する収税官吏の質問てん末書

一  北税務署長作成の証明書(5)

判示第三の事実につき

一  志水正男(65)及び平山哲也に対する収税官吏の各質問てん末書

一  原秀一作成の確認書

一  収税官吏作成の昭和六三年一二月一三日付各査察官調査書(三通、21ないし23)

一  北税務署長作成の証明書(6)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金一億円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、額縁小売業を営む被告人が、右事業及び株式取引等により昭和六〇年以降三年間に合計七億九七〇〇万円余りの所得をあげながら、売上げの一部を除外するなどしたほか、株式取引による収入をすべて除外して申告し、右三年分合計四億七六〇〇万円余りの所得税を脱税した事案であるが、ほ脱額は高額であり、各年分のほ脱率も、いずれも九七パーセントを超えるものであつて、納税義務に著しく違反する大胆な脱税行為というほかない。被告人は、店舗改築の費用を捻出するために本件脱税に及んだというのであるが、このような脱税の動機が量刑上格別有利な事情となり得ないことはいうまでもなく、右ほ脱額等からすれば、被告人を実刑に処することも十分に考えられるところである。

しかし、他方、被告人は、本件犯行後は、その非を認めて国税当局及び検察官に事実関係を素直に供述するなど反省の情を示し、今後は税理士の指導のもとに納税義務に違反しないことを当公判廷において誓つていること、本件ほ脱額に関し、本税、附帯税合計六億九〇〇〇万円余り及び地方税一億二五〇〇万円余りを納付済みであること、被告人は、高等学校を卒業すると直ちに家業の荒物屋を手伝つてこれを次第に額縁、絵画等販売の事業に切り替え、相次いで両親を失つた後は店舗をビルに改築することが両親に対する供養であると信じて妻とともに懸命に稼働してきたものであり、元来が勤勉かつ実直な性格であつて、もとよりこれまで前科前歴もないこと、被告人が秘匿した所得の相当部分は継続的な株式取引によるものであるが、本件後の改正法による税制のもとで右株式取引を行つたとすれば、その税額は本件当時と比較して大幅に減少する可能性があることが窺われるのであり、この点は量刑上も無視できないことなど被告人のために斟酌すべき事情も多々認められるので、これら被告人に有利不利一切の事情を総合考慮すれば、被告人を主文の罰金刑及び検察官の求刑意見のとおりの懲役刑に処した上、懲役刑については、その執行を猶予するのが相当と判断する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙波厚 裁判官 的場純男 裁判官 三好幹夫)

別紙

修正貸借対照表(一)

昭和60年12月31日

西浦京史

<省略>

別紙

修正貸借対照表(二)

昭和61年12月31日

西浦京史

<省略>

別紙

修正貸借対照表(三)

昭和62年12月31日

西浦京史

<省略>

別紙

税額計算書

西浦京史

<省略>

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